[断・晩夏を経て纏わる幻]
夏はたった今、終わった。
どれ位、気を失っていたのだろう。
気がつくと目の前には姉の心配げな顔があった。
「宗、気がついたのね」
──ここは。
言われるまでもなく、その見知った内装から村に唯一ある診療所ということが知れた。そういえばあの並木はここの近くだった。
「ごめん、姉さん。心配かけたみたいだ」
照れ隠しなのか、姉は怒ったふりをした。
「あんな暑いところで、日射病になるまで何してたのよっ!」
何を………していたのだっけ。姉の言葉によって、僕はあのときの記憶が判然としないことに気がついた。
ただ蝉の声が。
「内川さんがあんたを見つけて、ここまで連れて行ってくれたのよ。後でお母さんたちと一緒にちゃんとお礼に──」
「今、何時?」
「え? ああ、四時よ」
ということは、気を失っていたのは三〇分位か。今までそんな経験をしたことのない僕にとっては、脅威の長さである。
そのようなことを姉に言うと、「覚えてないの?」と怪訝な顔をされた。
「何が?」
「あんた、内川さんに拾われたときはまだ、意識があったって聞いたけど。譫言のように何か言ってたって」
だから気を失ったのはせいぜい一〇分位のことよ、と姉は言った。
空白の二〇分。
僕は何を視て、何を口走ったのだろう。
(ああ………)
そうだった。
僕は僕でなくなったんだっけ。
四台しか寝台のない病室の窓から、外に目をやった。
蝉の声はもうしなかった。